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シャランシャラン。
風に乗って音が零れ落ちる。
白桜(ハクオウ)の長い白い髪が揺れる度に、その髪にさした簪の鈴の音が軽やかに、そして情緒的に音を立てる。
真っ直ぐ伸びた髪を少しだけ結いあげて、残りの髪は背中に流している。
花街の花魁だけでなく、女郎、色子も髪が長い者は普通に、髪をいくつにも束ねて結い合あげて、そこに簪やら櫛やら、美しい色合いのものをさして、自分を美しく見せるのが常であった。
花街に住んでいた白桜にも、その名残が見受けられる。
簪を髪にさして、少し結い上げるのが、癖になっていた。
白桜が動く度に、簪についた金の鈴はシャランシャランと硬質的だけれど、涼やかな音を響かせる。
「待て、そんなに急ぐな」
「遅いよ真麻(シンマ)」
白桜は、真麻より少し早い速度で足を歩める。
真麻は、金の髪を風に靡かせて、ため息をつきながら、白桜を追いかける。
彼の蒼い瞳と同じ色の紺碧の空が、頭上を見上げれば彼方まで広がっている。白い棚引く雲に、優しく大地を照らす黄金の太陽。
何処までも平和で長閑であった。
鈴国(レイコク)の花街、「雪月の花里」にある廓「明月」の花魁であった白桜。遊女としてでも、色子としてでもなく、中性、両性具有の花魁であった。
本来なら両性具有は花街で商いはしてはいけない決まりになっていた。
明月の廓に来る前は、色子として商いをしていたが、両性として商いをしたことはない。その躰の全てを手に入れたのは、白桜の隣を歩いている、彼を身請けした真麻であった。
彼を水揚げしたのも。
真麻は、太陽国と名高き真国(シンコク)の現王の兄王子である。もともと鈴国には、枢機卿となるべく、法王の元で勉学に励んでいた。
それが何の因果か、白桜という両性具有と知り合い、そして友となり、そして恋をしてしまった。最初に真麻に恋をしたのは白桜だった。
花魁とはいえ、遊女にして色子でもある白桜が、どんなに背伸びしても届かぬ、その身分の高さにも魅かれた。
だが、真麻という人間そのものに、一番惹かれたのは事実。彼がどんな身分であっても、白桜は真麻と出会う運命にある限り、彼に恋をしただろう。
太陽暦2033年の、初夏であった。
鈴国を出た二人は、真国に帰るための旅をしていた。真国への船が出ているのは隣国の楚(ソ)という国だ。その楚国より大分離れた桟(サン)という国にきていた。
宝石などの鉱山と金の採掘が高く、小さいながらも豊かで潤った国であった。
港が近い町にいるため、風に乗って僅かながら潮の匂いが鼻孔をかすめる。
白桜の、まるで水面を漂う水草のように、たよりなく揺れているような、その白い髪に手を伸ばして、真麻は彼を捕えた。
「痛いじゃないか」
頬を膨らませる白桜の、二十歳をこえているだろうに、どうにも童顔で、美しい少女にしか見えぬ面を見て、真麻は苦笑した。
「ふわふわ金魚のように泳いでいないで、いい加減俺の元に帰ってこい」
すでに、その手元には白桜がいる。白子(アルビノ)であるため、髪の色は真っ白で、瞳の色が薄い桃色をしている。時折真紅にも見えるその眼。
両性具有にありがちな蒼銀や、最上とされる水色の髪も瞳も持たぬ白桜は、行き交う人がみればただ美しいだけの美少女に見えるだろう。
傾国の美を、他の両性具有のように、同じように持つ白桜のことが、それでも心配でならぬ真麻。
蒼銀や水色の色をもっていれば、すでに拉致されて売られていたかもしれない。真麻が目を離したすきに、買い食いをしに離れてしまったり、心配の種はつきない。
少しは、自分の容姿というものを理解してくれないと困る。
「白桜。風に乗って散るのはいいが、俺の元で散れよ」
その言葉は、一見すると何の意味もないように思えるが、自分の下で乱れろとそういう意味なのだろう。
白桜は顔を紅くした。
真麻が、白桜の、朱をさした花魁時代の癖が抜けない瞼に口づける。それから、ふっくらとした紅をさしたかのようにあかい唇にも。
「………したくなった。責任とれよ」
真麻の首に手を伸ばして、白桜が妖艶な笑みを見せた。
「ああ、とってやるとも」
初夏の少し暑い日差しを手で遮って、二人は歩いていく。いくのは宿屋ではなく、逢引などに使われる茶屋の上にある部屋だろう。茶屋と看板にかかれた店を見つけて、少し波打つようになってきた、白桜の長い白髪が、真麻の視界を塞いだ。
「夜まで待たないからな」
艶っぽくささやかれる。耳元で。それがくすぐったくて、真麻は、白桜の身体を横抱きにして、茶屋の暖簾をくぐり、代金を置いて3階の空いている部屋へと足を動かす。
「少し痩せたか?」
「いいや。最近月のものがまた出てきて……少し食欲がないだけだ」
「月経か」
「悪かったな。こんな出来損ないの両性具有なのに、月経なんてあって」
「いや。俺の子をいつか、産んでくれ」
どさりと、すでに床に敷かれていた布団の上に転がされて、白桜が着ていた着物を肌蹴る。
「………」
白桜は、沈黙して、痛いほど真麻の背中に、爪を立てるのであった。
チリン。
白桜の、真麻からもらった簪の鈴が、畳の上に転がり、白い波を漂うに、白桜の長い髪が広がる。
白桜は、目を瞑って、真麻と唇を重ねるのであった。
風に乗って音が零れ落ちる。
白桜(ハクオウ)の長い白い髪が揺れる度に、その髪にさした簪の鈴の音が軽やかに、そして情緒的に音を立てる。
真っ直ぐ伸びた髪を少しだけ結いあげて、残りの髪は背中に流している。
花街の花魁だけでなく、女郎、色子も髪が長い者は普通に、髪をいくつにも束ねて結い合あげて、そこに簪やら櫛やら、美しい色合いのものをさして、自分を美しく見せるのが常であった。
花街に住んでいた白桜にも、その名残が見受けられる。
簪を髪にさして、少し結い上げるのが、癖になっていた。
白桜が動く度に、簪についた金の鈴はシャランシャランと硬質的だけれど、涼やかな音を響かせる。
「待て、そんなに急ぐな」
「遅いよ真麻(シンマ)」
白桜は、真麻より少し早い速度で足を歩める。
真麻は、金の髪を風に靡かせて、ため息をつきながら、白桜を追いかける。
彼の蒼い瞳と同じ色の紺碧の空が、頭上を見上げれば彼方まで広がっている。白い棚引く雲に、優しく大地を照らす黄金の太陽。
何処までも平和で長閑であった。
鈴国(レイコク)の花街、「雪月の花里」にある廓「明月」の花魁であった白桜。遊女としてでも、色子としてでもなく、中性、両性具有の花魁であった。
本来なら両性具有は花街で商いはしてはいけない決まりになっていた。
明月の廓に来る前は、色子として商いをしていたが、両性として商いをしたことはない。その躰の全てを手に入れたのは、白桜の隣を歩いている、彼を身請けした真麻であった。
彼を水揚げしたのも。
真麻は、太陽国と名高き真国(シンコク)の現王の兄王子である。もともと鈴国には、枢機卿となるべく、法王の元で勉学に励んでいた。
それが何の因果か、白桜という両性具有と知り合い、そして友となり、そして恋をしてしまった。最初に真麻に恋をしたのは白桜だった。
花魁とはいえ、遊女にして色子でもある白桜が、どんなに背伸びしても届かぬ、その身分の高さにも魅かれた。
だが、真麻という人間そのものに、一番惹かれたのは事実。彼がどんな身分であっても、白桜は真麻と出会う運命にある限り、彼に恋をしただろう。
太陽暦2033年の、初夏であった。
鈴国を出た二人は、真国に帰るための旅をしていた。真国への船が出ているのは隣国の楚(ソ)という国だ。その楚国より大分離れた桟(サン)という国にきていた。
宝石などの鉱山と金の採掘が高く、小さいながらも豊かで潤った国であった。
港が近い町にいるため、風に乗って僅かながら潮の匂いが鼻孔をかすめる。
白桜の、まるで水面を漂う水草のように、たよりなく揺れているような、その白い髪に手を伸ばして、真麻は彼を捕えた。
「痛いじゃないか」
頬を膨らませる白桜の、二十歳をこえているだろうに、どうにも童顔で、美しい少女にしか見えぬ面を見て、真麻は苦笑した。
「ふわふわ金魚のように泳いでいないで、いい加減俺の元に帰ってこい」
すでに、その手元には白桜がいる。白子(アルビノ)であるため、髪の色は真っ白で、瞳の色が薄い桃色をしている。時折真紅にも見えるその眼。
両性具有にありがちな蒼銀や、最上とされる水色の髪も瞳も持たぬ白桜は、行き交う人がみればただ美しいだけの美少女に見えるだろう。
傾国の美を、他の両性具有のように、同じように持つ白桜のことが、それでも心配でならぬ真麻。
蒼銀や水色の色をもっていれば、すでに拉致されて売られていたかもしれない。真麻が目を離したすきに、買い食いをしに離れてしまったり、心配の種はつきない。
少しは、自分の容姿というものを理解してくれないと困る。
「白桜。風に乗って散るのはいいが、俺の元で散れよ」
その言葉は、一見すると何の意味もないように思えるが、自分の下で乱れろとそういう意味なのだろう。
白桜は顔を紅くした。
真麻が、白桜の、朱をさした花魁時代の癖が抜けない瞼に口づける。それから、ふっくらとした紅をさしたかのようにあかい唇にも。
「………したくなった。責任とれよ」
真麻の首に手を伸ばして、白桜が妖艶な笑みを見せた。
「ああ、とってやるとも」
初夏の少し暑い日差しを手で遮って、二人は歩いていく。いくのは宿屋ではなく、逢引などに使われる茶屋の上にある部屋だろう。茶屋と看板にかかれた店を見つけて、少し波打つようになってきた、白桜の長い白髪が、真麻の視界を塞いだ。
「夜まで待たないからな」
艶っぽくささやかれる。耳元で。それがくすぐったくて、真麻は、白桜の身体を横抱きにして、茶屋の暖簾をくぐり、代金を置いて3階の空いている部屋へと足を動かす。
「少し痩せたか?」
「いいや。最近月のものがまた出てきて……少し食欲がないだけだ」
「月経か」
「悪かったな。こんな出来損ないの両性具有なのに、月経なんてあって」
「いや。俺の子をいつか、産んでくれ」
どさりと、すでに床に敷かれていた布団の上に転がされて、白桜が着ていた着物を肌蹴る。
「………」
白桜は、沈黙して、痛いほど真麻の背中に、爪を立てるのであった。
チリン。
白桜の、真麻からもらった簪の鈴が、畳の上に転がり、白い波を漂うに、白桜の長い髪が広がる。
白桜は、目を瞑って、真麻と唇を重ねるのであった。
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<< 白き桜はかの者にだけ散る
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